行き過ぎたマーケティングの成れの果て

 昨夜、NHK国際で〝パンデミック 激動の世界〟と言うドキュメントを見た。音楽やイベント、スポーツの業界が、かつてない苦境に立たされている、と言うポイントに絞った番組だった。自分もスポーツの端くれにいるので分かる。
 但し、両手を挙げて「分かる!」と言うよりは「そりゃ、そうなるよね」と言う印象の方が強かった。

 あのavexが自社ビル売却と言う窮地に立たされている、と言うのが一番納得いった。なぜなら最初からavexの事業モデルは、本来あるべき姿から見ると〝完全に歪んだビジネスモデル〟だからだ。

 ある超人気ユニットを抱えるプロダクションの重役がかつて自分にこう言った。
『極論言うと何億万枚売れても一円も入って来ないんですよ』
これは衝撃だった。慌てて付け足して
『勿論、アーティスト印税は入ってきますが、まぁそれは微々たるもので…』
と、言葉を付け足したが、付け足したらかえってしょぼくれた…みたいな話しだった。

 かつて歌手はレコードを〝売る〟のが商売だった。売れたら食えて、売れなかったら食えないと言う流れで、物凄く当然かつ当たり前の仕組みだった。

 それをある時から、利益の出るポイント、それを私はキャッシュポイントと勝手に呼んでいるが、そのキャッシュポイントの発生地点の位置をずらした。

 まずレコード会社が地域にあるレンタルショップを買う。レンタル店をその会社ごとグループに組み込んでしまう。或いは良くあるパターンで棚を買ってしまう。そうして手に入れた〝自分たちの棚〟には何を陳列しても良い。置く商品は自分達で決められる。しかし誰も借りない(売れない)ものを置いたら、今度は店の売り上げに響く。

 そこで宣伝をするのだが、歌手を宣伝する最も簡単な方法。それはTVに出す事。これはあくまでも新曲のプロモーションの為だ。当然、出演料なんて要らない。出させて貰えるのであれば、歌番組ばかりではなくバラエティーだって朝昼の帯だって何だって出る。出て歌えるか、宣伝出来れば目的は100%果たした事になる。そしてファンや顧客はレンタル屋やレコードショップの棚に目掛けて走る。

 次にこの商品(この場合、CDだが)の利益率が高ければ高いほど、レコード会社にとっては良いのは当然。そこで、そのレコードの主人公たるアーティストはTVばかりか、肝心要のレコードまでレコード会社に〝タダでくれてやる〟と言うバーゲン商売をやる。じゃあそこで食い扶持を失ったアーティストはどうするのか?

 ライブである。複雑で回収の遅いCDに比べたら、ライブのチケットと会場で売る記念グッズほど美味しい商売は無い。特にグッズは入れ喰い状態で、ここにかこつけて脱税を何度も繰り返した輩もいる。最近は偽名でユーチューバーやっている様ですが(笑)

 ここに、この本来の姿では無いビジネスモデルに〝ネット配信〟が襲った。この分野では日本全体が立ち遅れた形になったが、ライブの売り上げがそれを補ってくれた。
 
 その肝心要のライブをコロナが襲った。これで完全に業界の息の根を止めた。しかし考えて見たら分かり易い話だ。自分で原版権を持っているアーティストや事務所は何とか生きていける。しかし大きな仕組みを綿密に作り上げた組織ほどこうなると脆い。

 F1の世界で言うと、去年、一番やばかったのがマクラーレンだった。最後は株主の口利きで銀行融資まで漕ぎ着けたが、あの〝パラゴン〟の異名を持つマクラーレンテクノロジーセンターは結局、売却の憂き目にあった。

 こう言う時は、本来のレーシングチームの運営会社だけの方が、何とか生き残れるのは皮肉としか言いようがない。かといってそれは規模が小さければ良いと言っている訳でもない。つまりは〝事業構造が本来の姿にあり、尚且つ適正なサイズの会社〟が生き残れるんだなぁと。

 重箱の隅をつつく様なマーケティングは何もなければ大きな効果を発揮する事は間違いない。しかし〝そもそも何だったっけ?〟と言う領域に入ってしまうと、にっちもさっちも行かなくなる。

 昨日の番組の最後の方に、ヨーロッパの封鎖時にアパートのベランダでアーティストたちが歌や楽器を弾いて多くの方々の希望や癒しになっている場面が映され、『そもそも自然にそこにある』ものの大切さを語っていた。

 経済最優先で市場を掘り起こしてマーケットを作り、そのフィールドで事業をやるのもいいが、ひとたび何かが起こると、ガタガタになってしまうのは、そもそも基本骨格の構造が出来ている様で、実は出来ていなかったと言う事なのだろうと思う。

 そう考えると、自分が仕事をやる時に、一番最初に考える〝そもそもこれは何なのか?〟と言う原点を常に見つめながらやっていかないと、コロナ後だってやっていけないと思いますよ。

アキバ☆ソフマップ・ドットコム